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家族信託8

家族信託を使った事例―その2―

【幼い孫が大学に行くときに入学資金を贈与する事例】

〈現在の状況〉

シングルマザーのA子さんには4歳の子供Bがいます。A子さんの父親Cさん(65歳)は、Bが大学に入学したら入学金その他の入学費用を出すと言ってくれています。ところが、Bが大学に入るころにはCさんは80歳くらいになっていますので、果たしてその時まで元気でいてくれているか、特に認知症になったりはしないかと心配しています。

1.何が問題となるか?

A子さんが心配するように、Bが大学に入学する時点でCさんが認知症になっているとしたら、Cさん本人が銀行からまとまったお金を下ろすことができないのはもちろんのこと、A 子さんが銀行の窓口で事情を説明しても、銀行側は応じてはくれないでしょう。おそらく、成年後見人を付けてくださいというアドバイスを受けることと思います。ところが、成年後見人は家庭裁判所によって選任されますので、その手続きには1~2か月はかかるでしょうから、そうすると入学手続きに間に合わないということもありえます。また、そもそも成年後見人は、本人Cさんを保護するために付されるものですので、孫のBの入学費用にCさんの財産を使うことについて、家庭裁判所が許可を出してくれない可能性があります。

それでは、任意後見制度を利用すればどうでしょうか。Cさんが元気なうちに、自分の判断能力が衰えたときに備えて予め後見人を選んでおくことができますが、この後見人には必ず任意後見監督人が付きます。この監督人は、後見人が本人のためにきちんと仕事をしているかチェックをしますので、①の場合と同様、Cさんの財産をBのために使うことには同意しないということも考えられます。

もし、Bがたとえば高校1年生のときにCさんが亡くなったとしたらどうなるでしょうか。相続人がA子さん一人だと何の問題もありませんが、他にも相続人が何人もいたり、あるいはCさんに多額の借金があったりすると、Bには十分な入学資金が残らないかもしれません。ではCさんが遺言をしてたらどうでしょうか。遺言があると、Cさんの希望が実現できる可能性は高くなりますが、遺言の内容によってはA子さんに対して相続税あるいはBに対して贈与税がかかってきます。

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2.「教育資金の一括贈与の特例」を使うと…

これは、父母・祖父母などの直系尊属から教育資金として一括贈与を受けた場合は、受けた人一人につき1,500万円まで贈与税が非課税となるというものです。ただこの制度を利用するには、定められた方式に従わなければなりません。つまり本事例の場合、まずBは(もちろんA子さんが代理しますが)銀行に「教育資金口座」を開設し、銀行を通じて税務署に届ける必要があります。そしてCさんが元気なうちに、たとえば1,000万円をBに贈与すると、そのお金は必ずこの「教育資金口座」に預け、将来必要になった時に引き出します。引き出して実際に教育資金に使ったら、その領収書を所定の時期までに銀行に提出しなければなりません。また、教育資金に使った後Bが30歳になった時点で預けていたお金が残っている場合は、それに対して贈与税がかかります。このように、この制度は少々面倒な点があり、また使い切らないと贈与税がかかるというデメリットがあります。しかもこの制度が利用できるのは、とりあえず2021年3月までとなっています。

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家族信託の出番です!

3.家族信託を使うと…

①Cさんが認知症になってしまったら?

Cさんが元気なうちに、A子さんを受託者としてお金を信託します(受益者はCさんです)。その信託契約の中で、Bが大学に入学したら入学資金としてそのお金を使うということを明らかにしておきます。そうすれば、その後Cさんが認知症になったとしても心配はありません。たとえその時点でCさんに成年後見人が付いていたとしても、信託契約どおりにお金を使うことができます。A子さんが受託者としてお金を管理しているわけですから、銀行から引き出す際にも何の支障もありません。

②Cさんが亡くなったら?

もし、万一CさんがBの入学前に亡くなったとしても、信託されたお金は相続財産にはなりませんので、信託契約どおり入学資金として使うことができます。

③贈与税はどうなる?

このようにして、信託されたお金をBの入学資金として使った場合、Bに対して贈与税がかかるのでしょうか。この点については、扶養義務者(父母・祖父母)から生活費や教育費(義務教育に限らず高等教育も含まれます)に充てるために贈与を受けた場合、「通常必要と認められるもの」については贈与税はかからないことになっています。入学資金は、もちろんこの「通常必要と認められるもの」といえると思われますので、贈与税はかからないということになります。

以上