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家族信託7

今回からは、家族信託が実際にどのような事例で使われるか、ということについて述べてゆきたいと思います。

家族信託を使った事例ーその1ー

 

【親族の一人に不動産を贈与する事例】

〈現在の状況〉

一人暮らしのAさんは、自宅とは別に甲土地を所有しています。そして甲土地には、Aさんの甥Bさんが家を建てて家族で住んでいます。
Bさんは、いろいろとAさんの面倒を見てくれていますので、いずれは(できれば早いうちに)甲土地をBさんに譲りたいとAさんは考えていますが、その方法について悩んでいます。
つまり、遺言でBさんに渡すのがよいのか(遺贈)、それとも今のうちに生前贈与をするのがよいのかということです。

↓そこでまず

1.遺言で渡す方法(遺贈)だと…

 

遺言が実際にその効力を生ずるのは、言うまでもなくAさんが亡くなった時点ですので、Aさんが亡くなるまでは甲土地はAさんのものです。
したがって、その間Bさんに甲土地と自宅を担保に入れて融資を受けたいという事情が生じたとしたら、Aさんにいわゆる物上保証人(他人のために自分の不動産を担保に供する人)になってもらわなければなりません。
ところが、もしその時Aさんが認知症にでもなっていたら、物上保証人になることはできません。あるいは、どうしても引越しをする必要が生じて、自宅と甲土地を売却したいとなった場合も同様の問題が生じます。
そこでAさんは生前贈与をしようと考えます。

2.生前贈与で渡す方法だと…

贈与の最大のデメリットは、高い贈与税がかかるということです。しかも不動産や高額の金銭を贈与する場合は、税率がいっきに上がってしまいます。
もっとも夫婦間や親子間での贈与の場合は、一定額が非課税となったり、納税猶予が受けられたりという優遇制度がありますが(たとえば居住用不動産における配偶者控除、住宅取得資金等の贈与・教育資金の一括贈与の場合の一定額の非課税、相続時精算課税制度など)、Bさんは甥ですので、このような特例を受けることはできません。
そこでBさんにも使える特例は、いわゆる暦年贈与しかないということで、Aさんの甲土地に対する持ち分を 毎年110万円分ずつBさんに移転させる方法が考えられます。
しかし、これでは甲土地の評価額が高額になるにつれ、全部の移転までに多くの年月を要しますので1.と同様の問題が生じます。

 ↓そこで

家族信託の出番です!

3.家族信託による方法では…

AさんからBさんに、Aさんを受益者として甲土地を信託します。Bさんに登記名義が移転しますが、これは形式的なもので、実質的な所有権はAさんに残っていますので(受益権を持つから)、Bさんに贈与税がかかることはありません。
それに対して、甲土地に関する管理処分権はBさんに属しますので、Bさんがこれを担保に供したり、売買や賃貸することができます。
そしてこれらの行為は、たとえAさんが認知症になった場合でもすることができます。
要するに、信託することによって生前贈与するのと同様の結果が得られるということです。

そして、Aさんが亡くなると信託は終了し、甲土地の所有権はBさんに移るとしておけば、Bさんは完全な所有権を取得することができます。
ただし、この時点でBさんには相続税がかかってきます。
さらに、もしAさんに子供などの法定相続人がいてBさんが相続人でない場合には、Bさんの相続税は2割増しとなる場合があります。
Bさんに相続税がかかるか否か、あるいはその額というのはAさんの遺産額によって決まりますが、いずれにしても贈与税よりは安く済むことになります。

もしBさんが相続人でない場合には、さらに不動産取得税がかかります。
逆に、Aさんに子供などの法定相続人がいない場合には、もちろんかかることはありません。
また固定資産税については、納税通知書は名義人であるBさん宛てに来ますので、このケースでは、もともとBさんが甲土地を譲り受けるのが目的でしたので、Bさんが負担するということで良いかと思います。

家族信託8 につづく