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家族信託6

今回は、これまでのまとめの意味も込めて、家族信託の設定から終了までの手続き・大まかな流れについて述べてみたいと思います。

1.家族信託の設定手続き

ここでは不動産を信託財産とする場合を中心に述べてゆきます。手続きの流れとしては以下のようになります。

①家族信託を行う目的を決める。
②信託契約の内容を決める。
③信託契約の内容を書面にする―信託契約書の作成。
④できれば信託契約書を公正証書にする。
⑤不動産の登記名義を変更する。
⑥信託のための専用口座を作る。

それぞれについて、もう少し具体的に述べてゆきます。

 

①家族信託を行う目的を決める

何のために、どういう目的で家族信託を利用するのかという点を明らかにします。
信託の目的としてよく挙げられている例は次のようなものです。

ア.財産家の高齢者が後に認知症になる場合に備えて、家族に財産を託しておく。
イ.認知症の妻のために、自分の亡き後のことを考えて予め信託しておく。
ウ.子供たちに不動産を平等に相続させたいと考えているが、共有名義とすると後々トラブルになる恐れがある。
エ.子供のいない夫婦で、妻の死後は妻の親族ではなく自分の血族に財産を与えたい。

などです。

②信託契約の内容を決める。

ここで留意しなければならないのは、同じような目的をするための制度として遺言や後見制度があるのにあえて家族信託を使うわけですから、そのメリットを生かすためにはどのような内容にすればよいか、という観点から決めてゆく必要があるということです。
以下に、必ず定めておかなければならない項目を挙げておきます。

a.信託目的
b.委託者
c.受託者(第二受託者を定めることもできます)
d.受益者(第二受益者を定めることもできます)
e.信託財産
f.信託財産の管理方法
g.信託期間
h.残余財産の帰属先

第二受託者というのは、当初の受託者が何らかの理由で財産の管理ができなくなる場合に備えて、次にそれを行う人のことです。
第二受益者というのは、当初の受益者の次に受益権を持つことになる人です。
たとえば、当初は夫が委託者兼受益者となり、夫の亡き後は妻が受益者となるとした場合の妻のことです。
信託期間は、たとえば5年という一定期間でもいいし、今の例で、夫が死亡すれば信託は終了するとしてもいいです。
残余財産の帰属先というのは、信託が終了した時点で信託財産を取得する人です。
たとえば今の例で、夫が死亡すれば信託は終了し妻が信託財産を取得すると定めることができます。

③信託契約の内容を書面にする―信託契約書の作成

基本的には、信託契約は委託者と受託者の当事者だけで結ぶことができますので、契約書も当事者で自由に作ることができます。
また、その雛形もパソコンで簡単にダウンロードできます。
しかし、法的にかなり高度な内容が含まれる場合がありますので、少しでも穴があったりすると後日のトラブルの種にもなりかねません。やはり専門家の意見を参考にするほうが良いと思います。

④信託契約書を公正証書にする。

原則的に信託契約書は公正証書でする必要はありませんが、公正証書ですると以下のようなメリットがあると言われています。

ア.公証人による確認がありますので、内容の不明確なところや誤字・脱字などをなくすことができます。

イ.公証人が中立的な立場で契約の成立を証明してくれますので(本人確認を含めて)、後々の紛争を予防できます。

ウ.信託契約書の原本を公証役場で保管してくれますので(原則20年以内)、万が一紛失しても再発行してもらえます。

エ.信託専用口座を作る際に、信託のための口座であることについての信頼性が増しますので、銀行等での手続きがスムーズにいく可能性が高くなります。

⑤不動産の名義変更の手続きをする。

不動産の名義を委託者から受託者に変更する必要があります。
ただし、所有権が実質的に受託者に移るわけではないので、この点は登記簿上で明確に示されます。
すなわち、登記原因は「信託」で、「所有者」ではなく「受託者」として登記され、さらに信託の内容が記載された「信託目録」が公示されます。
したがって、受託者に対して不動産取得税が課されることはありません。
ただ固定資産税の納税通知書は受託者宛てに送られてきますが、これは受益者が負担すべきものであることは以前に述べた通りです。

⑥信託のための専用口座を作る。

収益不動産が信託されて賃料収入が生じる場合、あるいは信託財産に現金や預貯金がある場合には、それらを信託専用の口座に入金しなければなりません。
受託者には、自己の財産との分別管理義務があるからです。すでに委託者の預貯金口座がある場合でもそのままでは信託することはできず、信託専用口座に移し替えなければなりません。
この信託専用口座については、前回に詳しく述べた通りです。

2.信託期間中

①信託財産の管理

たとえば収益不動産が信託された場合は、受託者が当該不動産に関する実務をいわゆる大家さんとしてすべて行うことになります。
そして、受益者の療養・看護等が必要な場合にはこれを行います。
もし、信託期間中に委託者の死亡等があったとしても、受託者の任務遂行上影響を受けることはありません。
これこそが信託の目的といえるからです。

②決算書類の作成

受託者には、収益不動産からの収益について決算書を作成する義務があります。

③計算書の提出

収益不動産からの収益は受益者のものとなりますから、受益者は原則所得税を納める必要がありますので、受託者はそのための計算書を税務署に提出しなければなりません(毎年1月31日まで)。

④受益者の死亡

もし第二受益者を定めていればその人が新しい受益者となりますので、信託の変更登記が必要となり受託者がこれを行います。
また、信託専用口座の名義変更が必要となる場合があります。
そして、第二受益者については、受益権を取得したことに基づいて相続税あるいは贈与税が課されます。

⑤受託者の死亡

もし第二受託者を定めていれば、受託者変更による信託の変更登記が必要となり、当の第二受託者本人がこれを行います。
また信託の設定の時と同様、新しい受託者に不動産取得税が課されることはありません。

3.信託の終了

信託契約で定めた一定の信託期間が経過したり、信託の終了原因とされた事実(たとえば受益者の死亡)が生じると信託が終了します。そして信託の清算手続きに入ることになります。その際に、残った財産は信託契約で定めていた人に帰属することになります。
この場合、残余財産が不動産なら所有権移転登記が必要となり、預貯金なら口座の名義変更が必要となります。

そして、当該財産の取得者と信託の委託者の関係性によって、取得者に対して相続税(取得者が法定相続人の場合)あるいは贈与税(取得者が法定相続人以外の場合)が課されます。
また後者の場合には、さらに不動産取得税も課されることになります(相続による取得の場合には不動産取得税は発生しません)。

家族信託7 につづく

以上