家族信託5
今回は、家族信託の問題点や疑問に思われそうな点について、いくつか取り上げてみたいと思います。
1.信託財産が金銭や有価証券の場合
①不動産を信託すると、委託者から受託者に対して所有権移転登記がなされますが、このとき信託を原因とするということが登記簿上明確に表示されますので問題はありません。
つまり、受託者が勝手にその不動産を売ったりはできませんし、受託者が破産しても差し押さえられるということはありません。
この後者の点は信託の倒産隔離機能と言われるものです。
②ところが金銭の場合は少し注意が必要です。
受託者には分別管理義務がありますので、信託された金銭については、自分の財産とは明確に区別して管理しなければなりません。
したがって、信託された金銭の預金口座も自分のそれとは別に作る必要がありますが、その口座名義が問題となります。
理想は、たとえば「委託者〇〇信託受託者◎◎」名義の信託口口座を設けることですが、これに応じてくれる銀行がまだ少ないようです(徐々に増えてはいるようですが)。
だからといって、受託者名義にすると分別管理義務に反するおそれがありますし、受託者に対する差し押さえがその口座にも及ぶおそれがあります。
さらに、受託者が亡くなった場合に口座が凍結されないかという問題も生じます。
信託のための管理口座であることを銀行側に説明して(信託契約書・本人確認書類の提示等)、できる限り受託者の個人口座と区別できる口座を開設するのが望ましいと思います。最悪でも、現にある受託者の口座とは別の新しい口座を開設すべきです。
③以上のことは、株式や国債などの有価証券を信託する場合でも同様です。証券会社の窓口では、なかなか簡単には応じてくれなのが実情のようです。
2.受託者に関する問題点
①受託者を誰にするか
「家族信託」という名の通り、受託者は家族のうちの誰か、あるいはそれに準ずる親族がなるのが普通でしょう。
もっとも法律上は信託会社でない民間人(法人を含む)であれば特に制限はありません。
では、弁護士・司法書士・税理士などの専門家を受託者にできるでしょうか。
この点、家族信託の受託者を「業として」行うことは法律上禁じられています。
「業として」とは、報酬の有無とは関係なく「反復継続して」という意味とされているところ、弁護士等は反復継続して行う可能性のある職業ですので、原則として受託者にはなりえないのではないかと思われます。
②受託者をチェックするシステムはあるか
いくら信頼できる家族を受託者にしたとしたとしても、やはり人間である以上間違いを起こしたり(たとえば信託された金銭を使い込む→業務上横領罪です)、運用に失敗して損害を与えたりすることがあるかもしれません。
そこでこのような場合に備えて、「信託監督人」を置くことができます。この「信託監督人」は、受託者がその任務を適正・適法に遂行しているかをチェックします。
したがって、専門家である弁護士・司法書士等の専門家になってもらうのが望ましいでしょう。
さらに「受益者代理人」の制度があります。
受益者は信託の利益を受ける本人ですから、自ら受託者を監督することができます。
ところが、その受益者が認知症であったり幼少であったりすると監督することができませんので、この「受益者代理人」を置いて受益者の代わりに受託者の仕事ぶりをチェックしたり、受益者の状況を把握しつつそれに応じた受益のあり方等を考えたりします。
このような制度を利用すれば安心ではありますが、そもそも第三者のチェックを必要としないほど信頼のできる人が周りにいないのであれば、信託を利用しない方がよいのかもしれません。
③受託者に報酬を支払うべきか
家族信託は家族間の信頼・扶助の精神を基礎とするものですので、必ずしも報酬を支払う必要はありませんが、支払ってもよいと思います。ただし、その額があまりに多いと、先ほど述べました「業として」行っているとみられる可能性がありますので、常識の範囲内で支払えばよいと思われます。また支払う場合は、その旨を信託契約の中で定めておくべきです。
④受託者が認知症になった、亡くなった
もし受託者が認知症になったり死亡したりして、受託者としての任務が果たせなくなったらどうなるでしょうか。
受託者の成年後見人や相続人が代わりに行うわけではありません。
受託者の任務は受益者のためのものであるし、受託者の地位は相続の対象にはならないからです。
通常はこのような場合に備えて、信託契約の中で新しく受託者になるべき人を決めておきます。もし決めていない場合は、委託者と受益者との合意で決めることができますし、その時に委託者がいない場合は、受益者が単独で決めることができます。
それでも決まらない場合、裁判所に選任してもらうこともできます。ただ、一年以内に決まらないときは信託は終了してしまいますので要注意です。
⑤受託者が破産した
これまで何度か述べてきましたが、信託すると信託財産の名義は受託者に移りますが、実質的に受託者のものになったわけではありません。
したがって、もし受託者が破産した場合でも、信託財産が差し押さえられるということはありません(倒産隔離機能といいます)。
また、受託者が破産するとその任務は終了しますので、新しい受託者を決めないといけません(決める方法は④で述べた通りです)。
ただし、信託契約において信託が終了しない旨を定めることは可能です。
3.委託者、受益者の破産
①委託者が破産した
信託財産は、法的形式的には委託者のものではありませんので、委託者の債権者による差し押さえはできません(倒産隔離機能)。
ただしこれを悪用して、委託者が債務を免れる意図の下、債権者を害することを知ったうえで信託を利用した場合は(詐害信託といいます)、債権者側から信託の取り消しをすることができます。
②受益者が破産した
この場合は問題ありです。受益権も財産権ですので、差し押さえの対象になりえます。
しかし受益者と委託者が異なる他益信託の場合は、受益権の源泉とも言うべき信託財産の実質的所有者は委託者ですので、受益者の債権者はこれを差し押さえることはできません。
ここでも倒産隔離機能は働きます。一方受益者と委託者が同一人の場合は、「受益権=信託財産→実質的所有者は委託者=受益者→差し押さえ可能」となりますので、倒産隔離機能はこの場合は働かないことになります。
家族信託6 につづく