家族信託4
今回も前回の続きとして、家族信託の税金関係について述べてみたいと思います。
1.固定資産税
固定資産税は、毎年1月1日時点における不動産登記名義人に対して課税されるものです。
不動産を信託財産として家族信託をした場合、たとえばお父さんが息子さんを受託者として自宅を信託して自分を受益者とした場合、息子さんに登記名義が移ります。
そうすると、翌年の固定資産税の納税通知書は息子さん宛てに届くことになります。
しかしこの場合は、受益者であるお父さんが負担すべきものであり、税務上もそれで問題はなく、また経費として処理することができます。
もちろんこの点について信託契約の内容としておけば、問題が生じることはないでしょう。
2.登録免許税
①の例のように、信託を原因として父から息子に所有権移転登記がなされる場合、登録免許税がかかります。
ここでの登録免許税は信託分のみで、所有権移転分については非課税となります(実質的な所有権の移動はなかったといえるから)。
そして、その信託分の税率は1,000分の4となっています(贈与や売買の場合は1,000分の20ですのでかなり低くなっています)。
また後になって、たとえばお父さんからお母さんに受益者が交代すると信託の変更登記が必要となりますが、その際の登録免許税は、不動産1個につき1,000円です。
この点についても、相続登記の場合の税率は1,000分の4ですのでかなり安いと言えます。
ただし信託の終了時において、たとえばお父さんから娘さんに自宅を無償譲渡したときは贈与税がかかります(娘さんへの所有権移転登記の際の登録免許税の税率は1,000分20)。
お父さんが亡くなって信託が終了し、娘さんが自宅を相続したときは相続税がかかります(同じく登録免許税の税率は1,000分の4)。
お父さんが存命中に信託が終了してお父さんに所有権が戻る場合は、所有権移転の登録免許税はかかりません(信託の開始時と同様、実質的な所有権の移動はなかったといえるから)。
そしてこれら信託の終了時に際しては信託の抹消登記が必要で、これについては登録免許税が不動産1個につき1,000円かかります。
3.優遇税制の適用があるか
①居住用不動産の夫婦間贈与
これは、結婚して20年以上経過している夫婦の間では、2,000万円までの贈与なら贈与税はかからないという制度です。
たとえば、お父さんが自宅を息子さんに信託し自分が受益者となる場合に、後に受益権を妻に贈与することができますが、このとき20年以上夫婦であればこの制度の適用を受けることができますので、2,000万円までは贈与税がかからないことになります。
②相続時精算課税
これは、60歳以上の親や祖父母から20歳以上の子や孫に生前贈与する場合に、その時点では贈与税は課さず相続の時点において相続税で清算しようという制度です。
贈与額が2,500万円までなら利用できます。
たとえば、父から息子への自宅の信託の事例で、後に父から娘へ受益権を生前贈与する場合、この制度を使えば娘さんは贈与税を支払う必要はありません。
ただしお父さんが亡くなると、この時の贈与額を相続財産に加えて相続税が課されることになります。その意味で税金支払いの先送りの制度といえるでしょう。
さらに、次に述べる小規模宅地の特例受けることができなくなるというデメリットがあります。
③相続税における小規模宅地の特例
小規模宅地の特例とは、被相続人が住んでいた土地の330㎡までは、その土地の評価額を80%減額してもらえるという制度です。
ただし、配偶者や原則として被相続人と同居している親族が相続人となる場合に限られますので、たとえば②と同じ事例で、お父さんが亡くなると住む権利を同居の娘さんに相続させる、という信託契約をしていたらこの制度が使えます。
そうすれば相続税をかなり抑えることができます。
④居住用不動産を売却した場合の3,000万円の特別控除
自宅を売却して利益が出た場合は譲渡所得税がかかりますが(前回のブログで述べた通りです)、この制度はその譲渡所得税を計算する際に、売却益から3,000万円を差し引くことができるというものです。
そして居住用不動産かどうかは、信託の場合は受益者について考えます。お父さんが息子さんに自宅を信託して自分が受益者となる場合に、お父さんにとって居住用不動産であれば、自宅を売却した際この制度を使うことができます。
以上のように、信託をしても種々の優遇税制を利用することができます。
家族信託5 につづく