家族信託3
今回は、家族信託をした場合の税金関係について述べてみたいと思います。
1.贈与税・相続税
①たとえば、お父さんが息子さんに不動産を贈与すると、息子さんに贈与税がかかります。また、お父さんが亡くなって息子さんが不動産を相続すると、息子さんに相続税がかかります。
では、お父さんが息子さんに不動産を信託して、自分が受益者となる場合(つまり自益信託)はどうでしょうか。
不動産を信託すると、信託を原因とする所有権移転登記がなされて登記名義が息子さんに移ります。
そうすると息子さんに贈与税がかかりそうですが、かかることはありません。
なぜなら、信託した不動産から利益を受けるのは受益者であるお父さんだからです。
つまりこの場合、実質的な所有権は息子さんには移っていないと考えるわけです。あくまで受益権の移動があったかどうかで判断されるということです。
②そうすると、たとえばお父さんが長男を受託者、お母さんを受益者として不動産を信託した場合はどうなるでしょうか。
この場合は、実質的な所有権はお父さんから受益者であるお母さんに移った、つまり受益権の移動があったということですから、お母さんに対して贈与税がかかるということになります。
③さらに①の例で、受益者であるお父さんが亡くなったらお母さんが受益者になるという信託をした場合、お母さんが受益者になった時点でお母さんに相続税がかかります。
また、お父さんが存命中に、その受益権を第三者(たとえば妹の娘さん=姪)に無償で譲渡した場合は、姪に対して贈与税がかかります。このように贈与税・相続税は、受益権が移動したか否かによって課されるか否かが決まるということです。
2.所得税
①所得税は利益の生じるところにかかるものです。
したがって、1.①の例のように、不動産の自益信託で賃料収入が受益者であるお父さんに入っている場合は、お父さんに所得税がかかります。
実際に家賃を受け取るのは受託者である息子さんですが、息子さんにかかることはありません。
また1.②の例の場合(他益信託)には、お母さんにかかってきます。つまり所得税は、常に受益者にかかるということになります。
②ここで注意しなければならないことがあります。
それは、受益者に他の事業からの所得がある場合に、信託による収入との損益合算ができないということです。
たとえば①の例で、お父さんが個人で農業経営をしていてそれが赤字という場合に、信託からの収入と合算することで、全体としての所得を減らすことはできないようになっています。
この点が家族信託の大きなデメリットといえますので、注意が必要です。
3.譲渡所得税
①ある財産を売却したことによって得られた利益に対しては、譲渡所得税がかかります。
たとえば1.①の例のように、最初は不動産を信託して、そこからの賃料収入で息子さんがお父さんの世話をするという信託契約を結んでいたところ、その不動産に意外な高値での買い取り話が出て来て、そこでそれを売却してその売却代金を運用してお父さんの世話をする、ということもあり得ます。
信託財産が不動産から金銭に変わったわけです。
そして、この売買において利益が出た場合には譲渡所得税がかかり、それはお父さんが負担することになります。
②また同じ例で、お父さんが受益権を第三者に売るということも考えられます。
ここでは信託財産はそのままで変わらず、受益者が交代します。
この場合も同じ理屈で、利益が出るとお父さんに譲渡所得税がかかってきます。
4.不動産取得税
①たとえば、当初は金銭を信託してその運用益で受益者の世話をし、後にその金銭でマンションを購入して賃料収入で世話をするという信託契約を結んだとします。
この場合、受託者名義の所有権登記がなされますが、不動産取得税は受益者に対してかかってきます。
信託されている金銭から支払われることになるでしょう。
②では、信託の開始時ではどうでしょうか。
不動産を信託した場合、その登記名義は受託者に移ります。
しかし、受託者に対して不動産取得税がかかることはありません。
受託者は、あくまでもその任務を遂行するために便宜上、形式上所有者になっているにすぎないからです。したがって、信託の開始時には不動産取得税は発生しません。
③しかし、信託の終了時には原則発生します。
ただし、信託が終了したら信託財産である不動産は元の所有者=委託者に戻るという契約の場合は発生しません(実質的な所有権の移動はなかったから)。
また、受益者が亡くなったらは信託は終了するという契約の場合、相続人が相続により不動産を取得しますが、不動産取得税はかかりません(通常の相続と同じだから。したがって相続税は発生します)。
家族信託4 につづく