家族信託:2
今回は、家族信託とはどういうものかについて述べたいと思います。
1.家族信託とは
①まず信託とは、財産を所有する者(委託者といいます)が、その財産の管理・運用を第三者(受託者といいます)に任せ、その受託者がある人(受益者といいます)のために管理等を行うというものです。ここに登場した3者が家族等の関係者である場合を家族信託とよんでいます。
②たとえば、お母さんが自分が施設に入るようなことがあれば、今住んでいる自宅を売却したいと考えているとします。
ところが、この先もしも認知症になってしまったら、自分一人では売却できなくなります(前回のブログで述べた通りです)。
そこで、お母さん(委託者)は元気でいる間に、娘さん(受託者)との間で「もし私が施設に入ったら自宅を売却してください。そして、そのお金で私のことをお願いします。」という契約を結んでおきます。
この場合、委託者であるお母さんは、同時に受益者でもあるわけです(委託者=受益者の信託を自益信託といいます)。家族信託の場合、契約の当初は、この自益信託がほとんどのようです。
2.家族信託のしくみ
①たとえば、先ほどのような家族信託をした場合、自宅の所有権は受託者である娘さんに移ります。登記名義人は娘さんになります。
この点に少々戸惑いを感じられる方も多いかと思います(自分のものではなくなってしまうのか…、大丈夫かなぁ?ということですね)。でも登記簿上では、信託を原因とする所有権移転であることが明示されますので、簡単には処分等はできないようになっています。
つまり、信託された財産の所有権は法律的・形式的には受託者に移りますが、経済的・実質的には今だ委託者のところに残っているということです。
②この点について、もう少し詳しく述べてみたいと思います。
所有権という権利の内容は、物を利用・収益・処分ことです。たとえば、不動産を賃貸して(利用)、家賃を得て(収益)、最終的には売却する(処分)ことができます。
そして、不動産を信託すると、収益権は委託者に残した状態で、利用権・処分権が受託者に移ります。だからこそ受託者は、所有者として信託財産を賃貸したり、売却したりできるのです。
ただし、利用権・処分権が受託者に移るとはいえ、それは信託契約に従って行使されることになりますので、受託者は実質的な所有者ではないということです。
③さらに、この点が家族信託の最大の特徴といえるのですが、たとえば、受託者が破産しても信託財産に対して差し押さえや強制執行されることはありませんし(受託者は実質的な所有者ではないから)、委託者が破産しても同様です(登記名義人ではないから)また受託者が亡くなった時、信託財産は相続されませんし、委託者が亡くなった時も同様に相続は発生しません。
このように、信託財産は“もはや誰のものでもない”状態にあるといえます。
3.「成年後見制度」、「遺言」との比較
①前回のブログで述べた通り、たとえば、もし認知症になってしまったら単独では自宅の売却はできませんし、成年後見人を付けるにしても最低一ヶ月はかかります。しかも売却には家庭裁判所の許可が必要となります。また、任意後見人が付いている場合でも、後見監督人がすんなりと許可を出してくれるかは難しいところです。
そこで、健康なうちに家族信託を利用すれば、委託者の意思が実現できることになるでしょう
②遺言は、その様式が厳格に要求されていますので、無効になることがあるという点は前回のブログで述べた通りです。
その点、家族信託はかなり自由といえます。また、遺言では実現できないようなことが家族信託ならできるという場合があります。
たとえば次のようなケースです。
子供がいない夫婦で、夫は自分が亡くなったらマンションを妻に相続させ、妻が亡くなった時は当該マンションを自分の甥に与えたいと考えたとします。もしこのような内容の遺言を作ったとしたらどうでしょうか。このケースでは、後半部分は無効になってしまいます。
なぜなら、妻が相続したマンションは妻だけが自由に処分できるからです。妻の所有物となったマンションの処分については、たとえ遺言であっても夫はタッチできません。
そこで、このケースで家族信託を使えば、たとえば次のような形になると思います。夫は甥にマンションを信託します。
その内容は、自分が元気な間は家賃は自分が受け取る、自分が亡くなったら妻が受け取る、そして妻が亡くなったらは甥が取得する(この時点で信託を終了させます)という契約を結べばよいと思います。
このように、家族信託を使えばかなり自由に実現することが可能になるのです。
家族信託3 に続く